アルコール依存症・脳の障害
脳に及ぼすアルコールの影響
「酒飲みが酒で死んだら本望だ」
私が飲んでいた頃、本気で思っていたことです。家族が居なければ、私は酒を断つことなく、もう死んでいたのではないかと思います。そう、当時の本望を達成していたと思うのです。
当時の思考は、ことお酒のことに関しては、矛盾だらけでした。そして、その矛盾に、論理的には気付くことが出来ても、その矛盾を解決しようと考えることはせず、ただお酒を飲むことに時間を費やしていました。
何故そうなったのか、アルコール専門医でも、ある程度のことは教えてくれましたが、それだけでは納得できないものがありました。
私がアルコール依存症のことを勉強して、最も恐ろしいと感じたのは脳萎縮です。アルコールやシンナー等の薬物は、脳を溶かし、萎縮さ せてしまうのです。つまり、お酒を飲み続けていると、知らぬ間に脳が萎縮して知能低下をもたらす。その結果、正常な判断が出来なくなる。何と、恐ろしい罠かと感じたのです。
下図は、脳の構造を示しています。
この構造を理解した上で、下図を参照下さい。
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アップした画像は、「アルコール依存症 治療・回復の手引き:小学館」より引用した、脳のCTスキャン画像です。アル症者の脳では、外表面の溝に隙間が出来ており、特に前頭葉側で顕著です。又、中央に見える脳室も拡大しており、脳萎縮が進んでいることが判ります。
お酒を飲んでいた頃、「酒飲みが酒で死んだら本望だ」等と考えていたのは、この脳萎縮が関係しているに違いない。断酒して、しばらくするとそう考えるようになっていました。
しかし、種々体調不良を引き起こし、各種検査をする過程で、脳のCTを撮る機会がありましたが、幸いなことに、私の脳は年齢相当のものであり、アルコールによる脳萎縮は殆ど進んでお りませんでした。私の仮説の一部は、ここで崩れたのです。
その後も脳の機能について興味を持っていると、『「感じる脳」アントニオ・R・ダマシオ著;田中三彦訳』という本に出会いました。この本を読んで、最初に興味を持ったのは、脳の機能障害に関する記述です。
前頭葉中央に、前頭前領域と呼ばれる部分があり、この部分は、脳が損傷しても、知能は衰えず、言語の障害も、身体機能も損なわれないのです。何の役割を果たしているのか、昔は判らなかった部分なのです。
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この前頭前領域が損傷している患者を調べると、共通項は異常な社会的行動が見られ、若くしてリーダシップを発揮していたエンジニアが、事故でこの部分を損傷した後、知能や言語、身体能力に顕著な障害は認められなかったのに、性格が粗暴になり、一生を台無しにしてしまったと言う例がありました。幼くして、前頭前領域が損傷した患者には、社会的道徳を身につけることが出来ず、どのように教育されても、社会に適合出来ず、性格が悪いと考えられていました。
しかし、これらの根本原因は、経験則からすると、前頭前領域の損傷なのです。
ここで考えなければならないことがあります。アルコールは� �脳萎縮をもたらしますが、その薬効は脳を溶かすだけではなく、マヒもさせると言うことです。特に大脳新皮質は簡単にマヒさせられてしまう。お酒が、ストレス解消に役立つと言われているのは、この大脳新皮質をマヒさせる効果があるからなのです。
ストレス解消にと、お酒を飲み続ければ、脳がマヒしている時間がそれだけ長くなる。すると、前述の前頭前領域もマヒさせられている時間が長くなるのです。その結果、正常な判断が出来なくなり、「酒飲みが酒で死んだら本望だ」となってしまうのではないでしょうか。
この仮説により、私の有していた仮説で崩れ去った部分が修復でました。脳萎縮以前に、脳の機能障害により、より早くその影響は現れるのです。脳科学も、私にとって役立つものであると知る� �とが出来ました。
そして、さらに調べていくと、アルコール依存症になりやすさや、うつ状態を引き起こす原因についても、脳科学の側面から理解することが可能であると思うようになってきました。
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アルコール依存症のメカニズムが解明できたなら、当然の帰結として対策も立案できるのです。うつ状態の発生メカニズムを知ることが出来れば、日常生活での注意点を知ることが出来、うつ状態から脱することが出来るのです。(うつ病の改善についてを参照下さい)
前述したように、前頭葉側で脳萎縮が顕著であるということは、萎縮が現実のものとなる前に、まず前頭葉の働きに異常が生じている可能性が高いと思えます。前頭葉中央には、人格を決定付ける部分があることを忘れてはいけません。すなわち、アルコールは、まずお酒を飲んでいる人の人格を侵略しようとしているのです。
アルコールが脳に及ぼす影響は、こ� �ような脳細胞の破壊だけではなく、神経伝達物質の授受や、脳細胞の質にも影響を及ぼします。
下図は、脳内神経伝達物質の授受を行う、シナプスの構造です。
「アルコール依存の生物学:学会出版センター」に掲載されている内容から、私が気になったことを要約すれば、以下のようになります。
【アルコールが脳細胞膜に及ぼす影響】
アルコールの連用は、神経細胞膜の流動性を低下させ、膜脂質の組成および代謝が変化する。また、膜結合蛋白質にも構造の変化が生じ、これらのことが原因で、アルコールは神経伝達物質の授受に影響を及ぼすと考えられています。
【アルコールが神経伝達物質の授受に及ぼす影響】
アルコールは、神経伝達物質の取り込みおよびシナプス性放出を� �化させます。一般に、アルコールは神経伝達物質の放出を抑制するのですが、アルコール依存成立時にはドーパミンやセロトニンの放出が増強されると言われているようです。
依存性薬物(アルコールや麻薬等)の反復摂取は、持続的な中枢神経機能の抑制または遮断が、シナプスにおける神経伝達物質の供給を減じ、このため伝達物質受容体が増加します。すなわち、プレシナプスとポストシナプスの間の神経伝達物質の濃度が低下するのです。
離脱症状は、アルコールの摂取を断つと神経伝達物質の供給が正常に復帰しようと増加しますが、受容体側の感受性が高いままであるため、過度の反応が生じることが原因の一つになっているのです。
その他、アルコールは脳に様々な影響を及ぼしますが、あまりに専門的になり過ぎるため、ここでは割愛します。
覚えておいて欲しいのは、アルコールがストレスの緩和に役立つのは、大脳の機 能抑制によるものであり、アルコールを大量摂取し続けた場合には、耐性の強化により、ストレスの緩和にはあまり役立たず、むしろ生活面での不利益から生じるストレスの増加が上回ることになります。百薬の長と呼ばれるアルコールも、少量であれば睡眠を促進しますが、多量に摂取し過ぎると、睡眠障害を引き起こすように、アルコールを摂取し過ぎると、それは劇毒でしかないという事です。
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